日頃、何のためにレッスンをするのか、エクササイズやゲームが一体何の役に立つのか疑問に思っている受講生がいると思います。それが、公演の稽古や本番、また撮影の本番に自分が立たされた時に、その疑問が解けることがあります。(気が付かない人もいるでしょう)
レッスンをする環境と、どこにも逃げられない本番の場では得られるもの(両方とも貴重です)もそうとう違うのです。
私はそれを経験した者がレッスンに意欲的になるのを見続けています。また逆に「自分には向いてない」と悟り去る人もいます。自分勝手では絶対成立しない厳しい集団作業の上で本番を向え、やり終えた後で誰もが喜びを得られるとは限らないものです。惨めな結果が出ても、また舞台、撮影現場に出たいと思える人でないと俳優はやってゆけないでしょう。義務や何かの付加価値を求めては俳優はつらいかもしれません。
自分を試験に掛ける意味でも集団作業の現場に出ることは、いい経験になるでしょう。人によっては、怖いこと(自分の生活、経済的なことも含め)かもしれませんが、自分を駆り立てて欲しいのです。レッスンだけやっていて満足せずに、厳しい現場に飛び込んで欲しいと思います。レッスンの最終的な目的はレッスンではなく本番だからです。
今回はそんなどうしても俳優をやってゆきたい、俳優で食べてゆきたいとゆう受講生に発信しようと思います。俳優は趣味でやる。自分の研究のためにと思っている人に聞き苦しい点があるでしょう。すみませんが無視してください。
これを読むことで、レッスンがなぜ必要なのか有効なのかを人それぞれに理解しなくてもいいからヒントになればと、いや少し感じることができればと思います。ここではクラスに実在する、また、在籍していた受講生にダメ出しをしますので、Webという公の場であることから、受講生はイニシャルで示しすことにします。
不定期連載ということで、ちょこ、ちょこ更新しますので、時々覗いて見てください。
深夜テレビドラマに出演参加したレッスン生たちとスタッフのダメ出しと記録
「セブンフェアリーズ~乙女裁判~」作品データ
■ スチール提供 KBS京都・SUNテレビ・MO ■
原作・脚本・監督 太田実
KBS京都・サンテレビ 共同制作
放送 MXTV 北陸放送 福島中央テレビ CSスカパーファミリー劇場
出演
茉理さやか 高木梓
小山ゆみ子 恩田和恵
磯川恭子 中村友美
吉沢典子 東真彌 細田あかり
堀之内博文 下江大介
松本峰樹 いのはら京子
阿部能丸 沢地優佳
■キャスティング(配役)-1 ■
一昨年の頭に、テレビの制作会社から依頼されたものは、低予算の深夜ドラマだった。正直な話「この予算で…」と一瞬悩んだが、その次の瞬間には「あれをやってみよう」と思い立っていました。有名俳優のほとんどは、まず低予算の作品で試され這い上がってくる。スタッフも同じだ。
低予算の小さな作品をバカにしている者は自分で壁を作りそこから出られない。
「クラスの連中を使って作ってみよう」こう思い、プロデューサーに話すと、主役級はダメだという。それもそうだ、テレビ局は視聴率を取り、番組販売をしたい。そのさいに分りやすい基準を示すには、少しでも視聴者が知っている俳優やタレントが手っ取り早い。ようするに局は経済効果の望めるものを第一にもってくる。これは、どこのショービジネス界でもあたり前のことだ。
芸術の蓑の中に入っていつまでも否定していても始まらない。それより、自由にならない枠の中でどれだけ自分の芸を表現できるかに、エネルギーを転化したほうがいい。
その枠は何かとプロデューサー尋ねると、美少女アイドルを使って、できればホラーを作って欲しいということだ。「きたー」猫も杓子もアイドルホラーの時期だ。詳しい内容については、低予算なので自由に作っていいと言うことだった。
オンエアーの時期を聞くとメインの関西2局は4月の2週目の土曜の深夜。首都圏では3週目の金曜のオンエアーだ。各地方局に納品するに4月の1週目には完成して納品しなければならない。プロデューサーはもうひとつ付け加えた。長さ30分ドラマを3話作ってください。「な、なにー!」その番組は変則的に月1回の連続ドラマを実験的にやるという。もう1月である。
「時間がない」低予算の宿命だ。
さっそくクラスの面々を把握して、ドラマの設定を書き上げた。アイドルさんたちにクラスの連中を入れてドラマを作ることに「無某だ」というスタッフもいたが、では、いつ彼らはプロの現場に行くのか?レッスンの段階も踏んでゆくのも当然のことだが、今活躍している俳優たちも準備万端で「最初のチャンス」に挑んだわけでわない。サッと降り掛かってきたチャンスに「いきなり」があったはずだ。
だからこそいつ来るかわからない「チャンス」に備えてレッスンやトレーニングが常に必要なのだ。名優はそれを知っている。
日本にはある声や型を憶え込ませた演技ができるようになれば、本番でもそれを再生すればいいと、自分の内面を動かす調整、トレーニングを毎日しない。演技こそ微妙な調整が必要なはずであるのに。特にクローズアップが存在する映像の世界では顕著に表れるはずである。
少し横道にそれたが、私自身にも余裕は無かった。贅沢なキャスティングも出来ないし、予算もない。よく実力を知るクラスの連中を使うことに腹を決めた。
こういう条件の時にチャンスがころがって来ることが多い。条件を突きつけられて、すぐ毛嫌いし断ることがあるが、よく考えることだ。ただ断っておくが、すべてに素晴らしい結果が得られるとは限らない。作り手の方にも、こういう条件の元で起用された意欲的なアーティストが現れる可能性が大きいのだ。デニーロたちがまだ無名の監督だったスコセッシ、デパルマなどに出会った例は偶然ではないのだ。厳しい条件の中から大きな出会いがあるからだ。
私はクラスの連中に自主製作の映画をバカにしないで、積極的に参加しろと言っている。無名だからこそできる事があるが、それを最大限に生かせばいい。失敗を恐れては先には進めない。
さて、キャスティングだが、もちろんレッスンでいい結果を出しているメンバーを選ぶことは外せない。情に流されたキャスティングがどんな結果を生むかは、経験でイヤというほど知っている。
クラスに在籍して平均2年あたりのメンバーを重要な役の候補としてチョイスした。
―キャステイング(配役)、次回に続く